文化庁のプレスリリース
川本喜八郎(1925-2010)と岡本忠成(1932-1990)は、日本のアニメーション映画、とりわけストップモーション撮影による立体アニメーションの分野でそれぞれ類なき功績を残した作家です。両者とも日本でこのジャンルの礎を築いた持永只仁のもとから巣立ちましたが、二人の歩んだ道は対照的です。
人形映画の先進国チェコスロヴァキアで学び直した川本は、自らの生み出す端正なキャラクターに魂を吹き込み、生涯を人形に捧げた求道者として、テレビの歴史人形劇や外国との合作にも活路を見出しました。一方で子どもたちに照準を合わせた岡本は、平面・立体・半立体を自在に使い分け、木・皮・布・毛糸・紙・粘土など多様な素材をアニメートして、主に教育映画の分野で創造性を発揮しました。7歳の差はあったものの誕生日が同じ二人は、よきライバルであり、互いのよき理解者でもありました。
1970年代には、互いの作品上映と人形劇を組み合わせた公演「川本+岡本 パペットアニメーショウ」を共同で企画、6回にわたって開催し大きな話題を集めました。また後年、岡本の他界により制作が中断した『注文の多い料理店』(1991年)を完成に導いたのも、ほかならぬ川本でした。
当館は、フィルムセンター時代の2004年に展覧会「岡本忠成 アニメーションの世界」を企画、また二人の師・持永只仁を顕彰する展覧会も2017年に開催しました。そして川本の没後10年、岡本の没後30年となる2020年、再びこの分野に光を当て、人形をはじめとする撮影素材や作品制作のための様々な資料を展示し、二人の友情の象徴である「パペットアニメーショウ」の名を冠してその足跡をたどります。
*パペットアニメーショウとは*
「パペットアニメーショウ」とは、「パペットアニメーション(人形アニメーション)」と「パペットショウ(人形劇)」を組み合わせた造語で、川本喜八郎と岡本忠成によるアニメーション作品上映と人形劇上演を組み合わせた公演のタイトル。1972年にスタートし、特別公演を除いて1980年まで6回開催されて好評を博した。
- 展覧会の構成
第1章|修業時代
二人の共通点は「学び直し」を通じてアニメーション作家になった点である。川本は、絵本やCM用の人形作りと並行して持永只仁率いる人形映画製作所で技術を習得したが、作家として立つ契機になったのはチェコスロヴァキア留学時(1963~64年)にイジー・トルンカの薫陶を受けたことであった。また法学部出身の岡本は、一度は企業で働いたものの日本大学芸術学部に再入学して立体アニメーションを志し、1961年から持永らのMOMプロダクションで実践を積むことで、作家となるための基盤を固めた。
〈主な展示品〉川本の人形を使った企業PR誌、川本のチェコ留学関連資料、岡本の卒業制作映画、MOMプロダクション在籍時の資料など
第2章|川本喜八郎 アニメーションの仕事
川本はアニメーションと人形劇という二つの分野で活躍した。NHKのテレビ人形劇『三国志』(1982~84年)や『平家物語』(1993~95年)が国民的な人気を得る一方、デビューから晩年まで、生涯を貫いて精根を傾けたのがアニメーション作品であった。自身が優れた人形美術家でもあった川本は、入念な準備により作品の全体像を綿密に構築してから撮影に臨むタイプの作家であり、初期には実験的な技法の作品も見られるが、本章ではデビュー作『花折り』(1968年)からチェコとの合作『いばら姫またはねむり姫』(1990年)まで、主に人形を用いたアニメーションの仕事をたどる。
〈主な展示品〉川本の代表的なアニメーション作品に出演した人形、絵コンテをはじめとする製作資料など
第3章|岡本忠成 アニメーションの仕事
1964年に自身のプロダクションであるエコーを設立し、コンスタントに作品を発表した岡本は、1971年には自らのスタジオを開設、後年そこは時に川本の仕事場にもなった。原作の世界をよりよく表現するため、才能に溢れたスタッフとともに毎回新たな手法を模索する岡本の哲学は、素材の面で驚くべき多彩さを見せることになり、立体・半立体・セルなど技法面でも常に挑戦を欠かさなかった。代表作『おこんじょうるり』(1982年)をはじめ、常に子どもたちを念頭に置き、日本のストップモーション動画界をリードした岡本の仕事を検証する。
〈主な展示品〉岡本の代表的なアニメーション作品に出演した人形、絵コンテをはじめとする製作資料など
第4章|「川本+岡本 パペットアニメーショウ」の時代
撮る前から精緻に作品の完成形を整える川本と、制作時の勢いが作品ににじみ出るタイプの岡本――その対照的な作風の二人が意気投合し、人形劇(パペット)の上演と映画(アニメ)の上映を組み合わせることで実現した公演(ショウ)が、1972年から1980年まで6回行われた「川本+岡本 パペットアニメーショウ」である。この画期的なイベントは、1971年に自身の作品上映会を催していた岡本の方から川本に提案したもので、立体をはじめ様々な技法を用いた短篇アニメーションという分野の楽しみを広く伝え、社会的に認知させることに貢献した。
〈主な展示品〉「川本+岡本 パペットアニメーショウ」のポスターほか公演宣伝資料、出演した人形、記録映像など
第5章|『注文の多い料理店』とその後
宮沢賢治原作の『注文の多い料理店』は、当初は人形アニメーション作品としても構想されたが、最終的には独特の空間表現のあるセル・アニメーションとして制作が開始された。惜しくも1990年に岡本が死去したため未完となったが、残された制作資料から岡本の意図を深く推し量り、長い格闘ののちに完成に導いたのは川本であった。図らずして最後の共同作業となったこの作品の背景を探求する。本章では『注文の多い料理店』に加え、川本の後期作品『冬の日』(2003年)と『死者の書』(2005年)などについても紹介する。
〈主な展示品〉『注文の多い料理店』の絵コンテをはじめとする製作資料など
- 開催概要
川本喜八郎+岡本忠成 パペットアニメーショウ2020
(Kihachiro Kawamoto and Tadanari Okamoto, Puppet Animation Filmmakers)
主催:国立映画アーカイブ
協力:有限会社 川本プロダクション、株式会社エコー、飯田市川本喜八郎人形美術館
企画協力:株式会社WOWOWプラス
会場:国立映画アーカイブ 展示室(7階)
会期:2020年12月19日[土]-2021年3月28日[日]
休室日:月曜日、12月28日[月]-1月4日[月]、2月1日[月]-8日[月]は休室です。
開室時間:午前11時-午後6時30分(入室は午後6時まで)*毎月末の金曜日のみ開室時間を午後8時まで延長いたします(入室は午後7時30分まで)
料金:一般250円(200円)/大学生130円(60円)/65歳以上、高校生以下及び18歳未満、障害者(付添者は原則1名まで)、国立映画アーカイブのキャンパスメンバーズは無料
*料金は常設の「日本映画の歴史」の入場料を含みます。
*( )内は20名以上の団体料金です。
*学生、65歳以上、障害者、キャンパスメンバーズの方は入室の際、証明できるものをご提示ください。
*国立映画アーカイブの上映観覧券(観覧後の半券可)をご提示いただくと、1回に限り団体料金が適用されます。
お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
HP:https://www.nfaj.go.jp/exhibition/puppetanimashow/