ポーラ美術館のプレスリリース
ポーラ美術館では、12月15日(日)から「シュルレアリスムと絵画 ―ダリ、エルンストと日本の『シュール』」展を開催します。フランスの詩人アンドレ・ブルトンが中心となって推し進めたシュルレアリスムは、20世紀の芸術に最も影響を及ぼした運動のひとつです。シュルレアリストたちは、理性を中心とした近代的な考え方を批判し、理性が及ばない無意識の世界の表現を追求しました。一方、日本では現実離れした幻想的な世界を描くものとして受け入れられ、しだいに「シュール」という独自の感覚が醸成されます。本展では、「シュール」と呼ばれる独自の表現への展開を示すものとして、現代美術家の束芋(たばいも)の作品約10点と成田亨(なりた・とおる)によるウルトラマン原画6点(会期中展示替えあり)を展示します。また資料として、つげ義春の漫画『ねじ式』もご紹介します。
束芋 《dolefullhouse》 2007年 ヴィデオ・インスタレーション ©2019 Tabaimo
束芋 《ghost-running 03-2》(部分) 2019年 ミクストメディア ©2019 Tabaimo
成田亨《ウルトラマン初稿》1966年(昭和41)ペン、水彩/紙 青森県立美術館蔵 ©NaritaTPC 前期展示(12/15-2/5)
■束芋とシュルレアリスム
束芋 《虫の声》 2016年 ヴィデオ・インスタレーション(映像部分)
映像、版画、ドローイング・・・シュルレアリスムの実験的技法を彷彿とさせる多様なアプローチ
束芋は、手描きのアニメーションを使った映像インスタレーションで知られる作家です。心の奥底に秘められた意識や、現代の日本社会に潜在する複雑な諸相を表す作品で国際的な評価を得てきました。
近年は、日本の伝統的な芸術にも関心を寄せ、近世の絵画からインスピレーションを得た《虫の声》のような、白無地の軸装に映像を投影する作品も制作しています。本展では日本初公開の本作と《dolefullhouse》の2点の映像インスタレーションを展示します。
また、2019年に発表した版画のシリーズ「ghost-running」は、版画用語で本刷りの後に残ったインクでもう一枚刷ったものを「ゴースト」と呼ぶことからうまれたものです。ニードルによって生みだされる繊細なイメージと、偶然性によって生まれるイメージを実験的に組み合わせながら制作されました。
事物の組み合わせによって偶然に生まれる、シュルレアリスム的な効果を生かした創作活動を展開している作家といえるでしょう。
また本展に合わせ、展示室の幅9mの壁にウォールドローイングを描く予定です。12月15日から完成されたドローイングをご覧いただけます。(ライブペインティングの予定はございません)。
■束芋(たばいも)について
1975年兵庫県生まれ。浮世絵を思わせる筆致や色彩のドローイングで、日本社会や自身の内面世界を象徴的に描く映像インスタレーションを多く制作してきた。近年では現代舞踊や伝統芸能とコラボレーションし舞台作品を制作するなど、活動は多岐にわたる。
束芋 《虫の声》 2016年 ヴィデオ・インスタレーション ©2019 Tabaimo
1999年に京都造形芸術大学の卒業制作として発表したインスタレーション作品「にっぽんの台所」がキリン・コンテンポラリー・アワード最優秀作品賞受賞。2011年には、ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館代表作家に選出された。主な個展に「ヨロヨロン 束芋」(2006年 原美術館)、「Tabaimo」(2006年〜2007年 カルティエ現代美術財団)「断面の世代」(2009年〜2010年 横浜美術館、国立国際美術館)。2016年にはシアトル美術館にて「写し」をテーマに大規模個展を開催。
束芋 《dolefullhouse》 2007年 ヴィデオ・インスタレーション ©2019 Tabaimo
近年展開している他分野とのコラボレーションには、浜離宮朝日ホール20周年記念コンサートでピアニストのパスカル・ロジェとの音楽と映像のコラボレーション(2012年)や、ダンサー森下真樹と共同演出した映像芝居『錆からでた実』(2013年に初演、2014年、2016年に再演)、杉本博司の脚本・演出による人形浄瑠璃『曾根崎心中』へのアニメーションでの参画(2013年)など。2020年2月より、映像芝居「錆からでた実」のアメリカツアーが始まる。
■成田亨とシュルレアリスム
怪獣の名は「ブルトン」「ダダ」。ウルトラ怪獣たちのアイデアの源泉はシュルレアリスム?!
成田亨 《ウルトラマン初稿》 1966年(昭和41)ペン、水彩/紙 青森県立美術館蔵 ©NaritaTPC 後期展示(2/6ー4/5)
1966年(昭和41)から放送された日本を代表する特撮映像シリーズ「ウルトラマン」には、シュルレアリスムに関心をもつ作家が多く関わっています。原画を手がけた成田亨は、シュルレアリスムの表現を研究し、怪獣にダダイズムにちなんだ「ダダ」や、シュルレアリスムの提唱者アンドレ・ブルトンからとった「ブルトン」といった名前を用いました。また、成田とともにウルトラマンシリーズの映像化に携わり、怪獣造形を担当していた高山良策(たかやま・りょうさく)は、日本のシュルレアリスムの代表的な画家・福沢一郎絵画研究所で学び、画家として活動していました。
成田亨 《ダダAイラスト》 1983年(昭和58)ペン、水彩/紙 青森県立美術館蔵 ©NaritaTPC 後期展示(2/6ー4/5)
デジタル合成技術のない時代に、「巨大な怪獣のリアルな映像化を実現する」というテーマのもと、身近なものを組み合わせ、またあるいは変形させて組み合わせることによって、異なるスケールの世界をリアルに創りあげることに成功しました。現実には存在しない世界を、あたかも現実に存在するものであるかのように表現するこの特撮の手法は、コラージュの異種混合の実験が導く新たなイメージの創出に通じています。
成田亨 《ブルトン》 1966年(昭和41) 鉛筆、水彩/紙 青森県立美術館蔵 ©NaritaTPC 前期展示(12/15ー2/5)
■成田亨(なりた・とおる)について
1929年兵庫県生まれ。彫刻家、画家、デザイナー、特撮美術監督と、ジャンルの垣根を越えた多彩な表現活動を行った作家です。武蔵野美術学校で絵画、彫刻を学び、気鋭の彫刻家として脚光を浴びていきます。同作品では、怪獣造形の原画のほか、特撮シーンで使われる建物のミニチュア作成を担当しました。
アルバイトとして映画『ゴジラ』(1954年)の製作に参加したことをきっかけに、以降、特撮美術の仕事も数多く手がけていきました。成田の高い芸術的感性が反映された卓越した造形センスにより、「成田怪獣」は放映から50年近く経った現在もなお愛され続けています。
資料展示・つげ義春『ねじ式』
つげ義春『ねじ式』、『ガロ 臨時増刊号 つげ義春特集1』no.47、東京青林堂、1968 年、4 頁
1960年代に漫画雑誌『ガロ』で人気を博したつげ義春(1937-)は、漫画の世界で「シュール」な世界観を表現した代表的な作家です。代表作『ねじ式』では、主人公が「現実」を逃避し、「幻覚の世界」をさまよい、最後には「新しい現実」に辿りつくといった、不条理ながらも魅力的な物語を生み出しています。
同時開催の企画展:シュルレアリスムと絵画 ―ダリ、エルンストと日本の「シュール」
古賀春江 《白い貝殻》 1932年(昭和7)ポーラ美術館蔵
2019年はシュルレアリスム誕生から100年の節目にあたります。フランスで誕生したシュルレアリスムは、理性を中心とした意識では捉えきれない新しい現実を表現することを目指して始まりました。この100年で変遷を遂げたシュルレアリスムの展開と、フランスから日本、そしてアメリカ、アジアにいたるまでのシュルレアリスムの広がりを約100点の絵画、版画によってたどります。
会期:2019年12月15日(日)~ 2020年4月5日(日)
■ポーラ美術館について
2002 年に神奈川県箱根町に開館。ポーラ創業家二代目の鈴⽊常司が40 数年間にわたり収集した、⻄洋絵画、⽇本の洋画、ガラス⼯芸、古今東⻄の化粧道具など総数約 1 万点を収蔵。
・開館時間︓9︓00-17:00(入館は 16︓30 まで)
・休館⽇︓無休(展⽰替えのための臨時休館あり)
・所在地︓神奈川県⾜柄下郡箱根町仙⽯原⼩塚⼭ 1285
・TEL︓0460-84-2111